月も雲間のなきは嫌にて候

殊光の物語とて,月も雲間のなきは嫌にて候。これ面白く候。池ノ坊の花の弟子,花のしほつけの事,細々物語り候。これも,えてして面白がらせ候はん事,さのみ面白からず候。

「月も雲間のなきは嫌にて候」(『禅鳳雑談』)は茶道でよく言及される言葉で,完全性を否定する姿勢が「詫び」につながるという趣旨である。その直後に,池坊にも言及されており,「意図的に面白がらせようとしたことは,それほど面白くない」と言わせている。技巧を凝らして観る人の関心を惹こうとしても,逆にわざとらしすぎて興ざめしてしまう。生け手は,観る人の足を止めたいと思いつつも,我が出すぎても興ざめする。自分のなかでいかにバランスを取るかが難しい。